STORY 04

キリンレモン

本質はそのままに、
今のお客様を見つめた
「現代語訳」を。

キリンレモン 90周年フルリニューアル

1928年に登場した、キリンを代表する清涼飲料「キリンレモン」。「絶對ニ人工着色ヲ施サズ」と謳われたように、爽快なおいしさと健康志向を両立させた、時代の先をゆく飲みものだった。そして2017年。90周年の節目を前に始まった、フルリニューアルプロジェクト。「本質」をより色濃く引き継ぎながら、キリンレモンを刷新するという挑戦。そこには、どんな想いが込められていたのか。新たに描かれたゴールにたどり着くために、どんな壁を超えてきたのか。プロジェクトの中心にいた2人が、対談形式で振り返る。

※内容・登場社員の所属は2018年当時

キリンレモン
商品中味開発

辻 香麻里

キリンビバレッジ株式会社
マーケティング本部 商品開発研究所 飲料開発担当

キリンレモン
商品企画開発

二宮 倫子

キリンビバレッジ株式会社
マーケティング本部 マーケティング部 商品担当 主任

自分から提案した、リニューアル。

今回のリニューアルは会社から話が降りてきたわけではなくて、二宮さんがもともとの仕掛け人なんだよね。

二宮 私は2017年の春から炭酸チームに配属されたのですが、その時にはまだ、リニューアルの話はなかったんです。

90周年がすぐそこだし、「リニューアルするのかな?」という気配はなんとなく感じていたけど。

二宮 もちろん、「何かしたいね」という空気はありました。けれどシビアに考えれば、90周年というのはキリン側の視点であって、お客様にとっての大きな価値にはなりにくい。だからこそ、この時代のお客様にとってのキリンレモンの価値を再定義し、ビジネスチャンスを見出すことがまず必要だったのです。

キリンレモンは、90年前には本当に画期的な飲みものだったよね。人工甘味料も人工着色料も一切使っていない。色付きの炭酸飲料が主流だった時代に、あえて中身もビンも無色透明にこだわっていた。

二宮 それって、まさにこの時代にこそ求められているものなのではないかと思ったんですね。一方で、キリンレモンはここ10年ほどずっと、子どもやティーンをターゲットと捉えてきました。デザインも広告も若年向けに展開しつづけた結果、「甘くてジャンクな飲みもの」という、本来の姿とはまったく違うイメージが定着しかけていた。原点に立ち返り、キリンレモンに込められた思想をより強く打ち出すことで、新しいビジネスチャンスが生まれるのではないか。そんな気づきをもとに、私から会社にプレゼンしたのがプロジェクトのはじまりです。

大人が安心できる飲みものへ。

ターゲットががらりと変わったよね。年齢や性別ではあえて区切らず、「健康的でナチュラルなものを好む大人層」と定義された。

二宮調査を重ねてわかったことですが、炭酸飲料のユーザーは前向きな方が多いんです。有職女性は、疲れやストレスはその日のうちにリセットして、向上心を持って前に進みたいと考えている。お母さん層なら、家族に自慢に思われるようないつも笑顔のお母さんでいたいから気分転換を大切にしている。そんな時のリフレッシュツールとして炭酸飲料が登場するんです。それを知って、私自身が「あ、いいな」と思ったんですね。そういうお客様が安心して手に取れて、日々の生活に彩りを感じられる飲みものにできれば、それがキリンレモンの新しい価値になると感じました。

二宮さんはもともと、炭酸飲料、好きなんだっけ。

二宮それが……(笑)。苦手だというわけではないのですが、飲む機会は少なかったですね。だからこそ、調査でお客様の声に触れて、なおさら新鮮にキリンレモンの可能性を感じ取れたのかもしれない。

   じつは私も、昔はほとんど飲んだことなくて(笑)。炭酸もそうだけど、レモン風味の飲みものを積極的に選んだ経験がなかった。その分、「そんな自分でも手に取りたくなる商品を」という目標を持てたのかも。

研究所からの逆提案。

二宮 今回の開発では、「品質にこだわりぬいたレモンの炭酸」という大前提だけは守りながらも、ほとんどゼロから辻さんに味を作ってもらいましたよね。しかも、初期段階から原料や製法についての提案をたくさん用意してくださって、本当に心強かったんです。お互いに熱量の高い状態でキックオフできたというか。

いつもなら、マーケティング部から降りてくるコンセプトを待って開発が始まっていく。でも、そのやり方だとこぼれ落ちてしまうものがある。「こういう原料が面白いですよ」とか、「この製法なら世の中にこんな訴求ができますよ」とか、マーケティング部が把握していない技術を元に逆提案する機会があったらいいなとずっと思っていました。今回はリニューアルの動きが早めに伝わってきたから、逆提案の準備をきちんと固める時間があったから実現できました。

二宮 辻さんからさまざまな提案を受けたことが、リニューアルコンセプトにも大きく影響しました。

コンセプトは「素材と製法にとことんこだわった、なつかしいのに新しい90周年のキリンレモン」。

二宮 瀬戸内産レモンのピールエキスを使うのも、辻さんからの提案でしたね。産地を限定するのも、本物のレモンから抽出した原料を使うのも、キリンレモンにとっての新しい試みだし、コンセプトをより強く伝えることができる。何より、瀬戸内産というところが私には響きました。歴史の長さでは海外産にかなわないけれど、日本でこだわりを持って育てられたブランドという点が、キリンレモンとも重なります。

本当に使えるかどうか、ドキドキしたけど(笑)。産地と製法にこだわりたい一方で、安全性への高いハードルはクリアしなければならないし、必要な量をちゃんと確保できるかも調べなければならない。その調査に時間がかかるから、万一のためにいくつもオプションを用意して。

二宮 それこそ、海外産を使った場合の検証もしてくださいましたね。でもやっぱり、瀬戸内産にこだわりたかった。試作品を調査にかけたとき、評価がとても高かったこともあって。

キリンレモンを、甘く見てはいけない。

調査といえば、砂糖を減らしたことがどう評価されるか、個人的にはかなり不安だった。ひと口飲んで、はっきり「甘い」と感じられたほうが、スコアが高くなる傾向にあるでしょう。だから、「現行のキリンレモンよりもおいしい」という評価がまとまった時には本当にホッとした。

二宮 レモンキャンディーのような風味は避けたかったんですよね。そういうテイストの炭酸飲料は世の中に数多いし、キリンレモンらしい差別化を図りたかった。

そこは最初から、二宮さんが明確にイメージを持っていたよね。「カフェで出てくる、輪切りのレモンが入ったレモン水」と。

二宮 そのレモン水の味を辻さんが分析に回して、データに基づきながら再現してくださいました。

レモンの味と一口に言っても、どこに由来するものかで全然違う。切った瞬間の香りなのか、搾った汁なのか、皮の白い部分なのか。だからこそ、ぶれないイメージがちゃんとあったのはありがたかったな。二宮さんは迷わないよね。「こうすべきだ」というコンセプトがはっきりしているから、選択肢が生まれた時に「こっちです」と断言してくれる。

二宮 でも、「やっぱり違いました。戻らせてください」とお願いしたこともありました(笑)。今だから言えますけど、私、甘く見てたなという反省があって。「レモンの炭酸飲料」というきわめてシンプルな飲みものだから、シンプルに作れるものだとどこかで思っていたんです。でも、フタを開けてみるとこんなに奥が深いとは。知識不足を痛感しました。

毎日のように、私に質問してきたよね。

二宮 辻さんのおかげで救われました。専門的なことも、私にもわかる言葉で噛み砕いて説明してくださったので、わからないまま進めてしまうことが一切ありませんでした。

飲みものづくりは、いろんな要素がぶつかるもの。何もかもやろうとすると必ず無理が出るから、きちんと優先順位をつけて進めないといけない。二宮さんは、技術的な「できる」「できない」を理解した上で、お客様においしさを届けることを絶対目標に優先順位を決めてくれた。おかげで、開発側としてもやりやすかった。

二宮 ダメ出ししてしまったこともありますが(笑)。

味を取るか、品質の安定を取るかという決断を迫られた場面が何度もあって。そういう時も、二宮さんの姿勢は一貫していた。「おいしさは変えずに、なんとか品質を安定させたい」と。その狙いがよくわかったから、こちらも厳しいスケジュールの中、成果を出せたのだと思う。

キリンレモンの元気は、キリンの元気。

歴史ある商品のリニューアルだけに、プレッシャーもすごかったよね。

二宮 そうですね。今回のリニューアルは、キリンレモンの本質を変えることなく、この時代のお客様に愛されるものにする「現代語訳」のような仕事だと思っていました。だからこそ、本質をつかむことに時間をかけたんです。アーカイブ室で1960年代以来の何百本というCMをぜんぶ見て、70代、80代のOBの方にも話をうかがって。「ぜひ復活させてくれ」という言葉をかけられた時には、「なんて重いバトンを受け取ったのだろう」と思いましたね。

私は残念ながら会えなかったけれど、当時のキリンレモン作りに関わっていた方もいらっしゃったとか。

二宮 数十年前のレシピを小数点以下まで覚えている方もおられ、本当にこだわって作っていたのだなと実感しました。いちばん印象深かったのが、誕生当時の味を守り抜く姿勢です。キリンレモンは何度も改良されているのですが、おいしさをキープしながら品質を上げていくという指針がぶれていないのです。

ブランドへの愛がとても深い。キリンにとっては初めて挑んだ清涼飲料でもあるし、昔は今ほどブランドの数も多くなかった。私たちもひとつひとつのブランドを大切にしているけど、「キリンレモン以外にない」という思い入れの強さには、かなわない部分があるのかもしれない。それはOBに限ったことではなくて、社内の人たちもきっと同じ。

二宮 あちこちから声をかけられました。確かに皆想いが強くて、「ここだけは変えないでほしい」と念を押されたり。でも、社内の意見を鵜呑みにはしませんでした。やっぱり、向き合うべきはお客様ですから。キリンレモンとお客様との約束を守れているか。判断の基準はそこにしかありません。辻さんが作ってくださった味の部分はもちろんですが、たとえばパッケージもそうです。

デザインはかなり変わったけれど、黄色と水色のアイデンティティは受け継いでいる。かつてのビンに似たクラフト感がある。それに、聖獣も大きくデザインされていて。

二宮 90年前のビンにも入っていた、大切なモチーフです。いまではビールのイメージが強いので、清涼飲料のデザインに採用することには賛否もあったのですが、ここはこだわり抜きました。

その分、キリンの本気が伝わってくると思う。ちょうどお取引先への営業活動が始まったところだけど、味も含めてすごく好評らしくて、本当にうれしい。

二宮 社名が入っている商品が盛り上がることで、キリンという会社自体も盛り上がると思うんです。手に取ったお客様にも、キリンの元気を感じていただけたら。私たちの「現代語訳」がどう受け取られるか、とてもワクワクしています。

キリンレモン

1928(昭和3)年に誕生した、キリン初の清涼飲料。当初からおいしさと品質にこだわり抜き、中身はもとより、びんの原料まで海外から厳選輸入して製造。あんぱん5銭の時代に25銭という高級品だった。その後、第二次世界大戦によって生産量が激減するなどの紆余曲折を経ながらも、変わらない味わいが支持され、名実ともにキリンの代表ブランドへ。90年に亘る歴史を経て愛飲され続けている。今回は、2014年以来のフルリニューアルとなる。

辻 香麻里

キリンビバレッジ株式会社
マーケティング本部 商品開発研究所 飲料開発担当

2008年の入社以来、一貫して現部署に所属。「メッツ」や「力水」のほか、「午後の紅茶」や「世界のKitchenから」のソルティライチなど、さまざまなブランドの中味開発を手がける。プライベートでは、一児の母。キリンレモンのリニューアルにも16時までの時短勤務の中で取り組み、成果を出している。

二宮 倫子

キリンビバレッジ株式会社
マーケティング本部 マーケティング部 商品担当 主任

2010年に入社し、営業に配属。スーパーなど店舗向けのマーチャンダイジング、鉄道企業の担当として駅売店でのプロモーション提案や自動販売機営業を経験。2013年より現職。「ファイア」や「午後の紅茶」などを経て、2017年より炭酸チームに。

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