STORY 01

新コーポレートスローガン

自分がキリンにいる理由。
それを、新たなスローガンの中に。

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新コーポレートスローガン

2019年1月。キリングループに大きな変化が起きた。長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」の策定と、それにあわせたミッションやビジョン、価値観の一斉アップデート。さらに、コーポレートスローガン「よろこびがつなぐ世界へ」の制定。企業ロゴの変更。 とりわけ、企業としての存在意義を社内外に宣言するコーポレートスローガンは、シンプルさの中にさまざまな想いが詰め込まれている。その制定のために抜擢された一人の女性社員。彼女がかつて、「キリンで働くこと」について抱いていた迷いとは。そして、「キリンらしさ」の追求の中で見つけた答えとは。

※内容・登場社員の所属は取材当時

岩永 綾乃

キリンホールディングス株式会社
ブランド戦略部

育休中の自問自答。

 「私はなぜ、キリンで働くんだろう」
 そんなふうに考え込んでしまったことが、岩永にはある。2度目の育休中だった。1度目がそうだったように、いずれは復職する予定。ところが、子育てに奮闘するうちにこんな疑問が浮かんできた。「子どもたちのためにも、この手でいい社会をつくりあげたい。けれどその願いは、キリンにいて叶うんだろうか」。
 会社ではマーケティングリサーチを手がけている。影響力のある仕事だし、やりがいだって大きい。もちろん、キリンという会社も大好きだ。けれどその仕事が「いい社会をつくること」に直結しているかどうか。もしもそう尋ねられたなら、自分は答えに詰まってしまうだろう。
 たとえば岩永は、育児経験をきっかけに待機児童問題など、子育てに関わる社会問題に強い関心を持つようになった。自分が本気になれる課題と向き合いながら、これからの社会をつくっていく道だってあるのではないか。似たような想いを抱いて、NPO法人へ転職した友人の話も耳にした。岩永の心は揺れた。キリンへの復職を果たした後も揺れ続けていた。  そんな岩永が「キリンらしさを考えるプロジェクト」に出会った。

キリンらしさを収集しよう。

 「キリンらしさを考えるプロジェクト」。活動内容は、タイトルそのままだ。公募で集まったキリングループのメンバーが、さまざまな取り組みと議論を重ねながら「キリンらしさ」を改めて定義づける。その結果をキリンの現状と突き合わせ、「キリンらしさ」をさらに発揮するために改善すべき点があれば、提言を行う。2027年までを視野に入れた長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」の策定と連動したプロジェクトだ。岩永はこれに飛びついた。誰もが暗黙のうちに感じてはいるものの、明文化はされていない「キリンらしさ」。その正体とは何なのか。それがはっきりすれば、自分がキリンで働く理由もはっきりするにちがいない。

 手を挙げたメンバーはじつに多彩だった。キリンビールの営業もいれば、キリンビバレッジで生産需給を手がける人もいる。協和発酵キリンで活躍している人もいる。所属も職種も十人十色。けれど岩永と同じく、何らかの危機感を抱いている人ばかりだ。まず着手したのは、メンバーそれぞれが聞き手となってのインタビュー。「この人の話が聞きたい」という対象をグループ内で自由にピックアップし、「なぜキリンに入社したのか」「いい面も悪い面も含めて、キリンらしさとは何だと考えるか」などを引き出し、収集していく。岩永は、尊敬する上司や先輩に時間を割いてもらった(メンバーの中には、社長に突撃する人もいた)。

 インタビューの結果が出そろうと、次のフェーズへ。全員分のインタビューを読み込んだ上で、ディスカッションを交わしながら「キリンらしさ」を追求していく。ディスカッションの舞台は横浜工場。なんと、一泊二日の長丁場。岩永にとっては、出産してから初めての外泊だ。まず、それぞれが自分なりに抽出したキーワードを付箋で張り出す。壁一面のそれを俯瞰しながら、まだ言葉になっていない「キリンらしさ」を見つけ、掘り下げる。ディスカッションを重ねるうちに、バラバラに見えていたキーワードが重なり合い、文脈が整理されていった。やがて全員の認識が、ある言葉の上で一致する。  「違いを力に変える」。

価値観をアップデートする。

 多様性は今の世界を表現する重要なキーワードだが、キリンにとっても欠くことができない。約10年前、岩永が入社した当時のキリンには、酒類の会社に特徴的だった「男社会」の空気がまだ少し漂っていた。女性社員もいたものの、仕事のやり方を男性に合わせることが活躍への近道だったりもした。けれど、それはもう昔の話だ。それぞれの志向や視点の違いを仕事に活かすことが、今ではマーケティングの上でも重要なポイントになっている。もちろん、男女差に限った話ではない。このプロジェクトがそうであるように、さまざまな立場の人が協働することで、お互いに刺激を与え合い、これまでになかった発想へとたどりつくことが可能になる。

 キリングループにはもともと、「Passion & Integrity(熱意と誠意)」という共通の価値観があった。そこに、「違いを力に変える」というニュアンスを加えてはどうか。従来の表現にもフィットする「多様性」という単語に集約し、「熱意・誠意・多様性 」へ。この提言は、正式に採用されることになった。

 インタビューの数々は、岩永個人の悩みも晴らしてくれた。上司や先輩の言葉を集めるうちに、そこに共通する「本質」が次第に浮かび上がってきたのだ。キリンは飲みものをビジネスにしているが、それはただ、喉を潤すためだけにあるのではない。気分や時間までも潤し、健康への願いにも応えようとしている。表現はさまざまだったが、誰もがそんな価値に触れていた。「製品を通じて、お客様に豊かな時間を届けていく」。岩永がインタビューを集約させたその一文は、岩永自身の入社動機を思い起こさせた。「世の中をワクワクさせる製品を手がけたい。キリンならそれができる」。岩永がつくりたいと願う「いい社会」は、ちゃんとキリンの仕事の先にあった。

長期経営構想「キリングループ・ビジョン2027」

先行きの見通しが困難な時代にあっても、持続的な成長を果たしていくことを目的に策定。「食から医にわたる領域で価値を創造し、世界のCSV先進企業となる」ことが謳われており、飲みものはもちろん、医薬分野のさらなる成長や、食と医とをつなぐ新たな事業展開などが構想されている。コーポレートスローガン「よろこびがつなぐ世界へ」も、これらを包含するものとして制定された。

思いがけない抜擢。

「キリンらしさを考えるプロジェクト」は無事経営への答申を行い終了した。20名のメンバーは、本来の業務に集中するためにそれぞれの職場へ戻っていった。が、岩永には次の展開が待っていた。  「新しいコーポレートスローガンづくりに関わってみないか」  ブランド戦略部から、そんな声がかかったのだ。プロジェクトでの活躍が部長の目に留まり、白羽の矢が立ったらしい。思いがけない展開。だが、願ってもないチャンス。

 コーポレートスローガンとは、企業哲学や存在意義が凝縮された短いセンテンスのこと。いわば、その会社の顔となる言葉だ。直近の数年間、キリンには対外的に使用するスローガンがなかった。強いて言うなら、ひとつひとつの製品が「顔」。結果として、世代や属性によってイメージが分散してしまい、キリン全体としての強力なブランディングが果たせていない現状がある。それを打破するための重要なミッションだ。

 すでにスローガンの候補は出そろっていた。ところが、コレ、というものが選べない。「表現の視野が狭すぎるんじゃないか」「CSV経営のニュアンスが弱いね」。チーム内ではさまざまな声が上がった。なぜ、目の前のアイデアに納得できないのだろう。その理由を探し求めることは、「キリンとは世の中に何を提供している会社なのか」を、改めてチーム全員で熟考することでもある。

聖獣麒麟

慶時の前に現れるといわれ、おめでたいしるしともされる伝説上の動物。1888年に「キリンビール」が初登場した時から、原型ともいえるデザインがラベルに登場。その翌年からは、ほぼ現在の形になった。図柄の中には、小さく「キ」「リ」「ン」の3文字が隠されている。

価値観をアップデートする。

 飲みものや医薬など、さまざまな製品を通じてキリンが届けているもの。それはまず「心と身体の健康」だ。さらに踏み込めば、その先には「人と社会のつながり」がある−−激論を重ねて、チームはキリンの価値をそう定義した。その前提のもとで、新たに寄せられたアイデアと向き合う。すると、全員が引き寄せられた言葉があった。「よろこび」だ。

 「よろこび」は、キリンの価値をしっかりと包み込める表現だった。岩永にしてみれば、上司や先輩に共通していた「お客様に豊かな時間を届ける」という想いや、「世の中をワクワクさせる」という自分自身の入社動機まで言い当てられたようでもある。岩永以外のメンバーたちも、きっと同じようなことを感じ取ったにちがいない。「よろこび」をコアとして、表現はさらに磨き上げられた。そして、最終的に採用されたフレーズこそが「よろこびがつなぐ世界へ」だった。

 スローガンの決定と並行して、企業ロゴにも変更が加えられた。赤が印象的な「KIRIN」のロゴに「聖獣麒麟」のマークが添えられることになったのだ。「聖獣麒麟」がほぼ現在の姿になったのは、1889年にデザインされた「キリンラガービール」のラベルから。その歴史ゆえに「古さをイメージされるのではないか」と、かつてはキリン内でも不安視されたことがある。ところが改めてリサーチした結果、若い世代も含めて広く支持されていることがわかった。「それならば」と、今では酒類はもちろん、2018年にリニューアルされた「キリンレモン」など、清涼飲料水にも一部で展開されている。じつのところ、「聖獣麒麟」に関するリサーチを手がけ、より幅広い活用を提言した一人が、ほかでもない岩永自身だった。「キリンらしさを考えるプロジェクト」が立ち上がる少し前のことだ。どこで何がつながるか、わからない。

ゴールである。出発点でもある。

 「よろこびがつなぐ世界へ」は、スローガンとしてのシンプルさを追求した言葉だ。一読して、その意味するところを完全に理解できる人はおそらく少ないだろう。けれど、と岩永は言う。「お客様がキリンの飲みものを味わいながら、くつろいだ時間を過ごす。ふと『キリンは今、確かによろこびを届けてくれた』と実感する。その瞬間が、このスローガンのひとつのゴールかもしれない」。

 ゴールになる、だけではない。このスローガンは、キリンの人間にとっては出発点でもある。 「市場を冷静に分析して『ここのニーズを埋めに行こう』と戦略的に決めていく。ものづくりには、そういうプロセスがあって当然です。でもそれだけに偏ることなく、『お客様のよろこびのためにものづくりをするんだよね』『つなぐために、世の中に広げていくんだよね』という想いから始められるかどうか。そのことで、たどりつく先がまるで変わると思うんです」。

 スローガンもまた「つくることがゴール」ではなく、むしろ始まりだ。これまでは手薄だった社内外へのコミュニケーション施策も積極的に行い、10年をかけて育てていく方針がある。スローガンの新設が、目に見える成果を出すのはしばらく先のことかもしれない。けれど少なくとも、これまで暗黙の中にあったキリングループのビジョンを広く宣言することができた。岩永にとっては、「自分がなぜキリンで働くのか」を明文化することにもつながった。それはきっと、これから入社する人にとっても、キリンを選ぶ大きな理由になっていく。そう信じている。

岩永 綾乃

キリンホールディングス株式会社
ブランド戦略部

2009年入社。大学院での専攻を活かし、キリンビール 北海道千歳工場にて醸造担当。2012年に本社へ異動し、2度の産休・育休を挟みながら、2018年までマーケティングリサーチを手がける。2018年秋、コーポレートスローガンの制定に関わると同時に現職へ。

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