STORY 02
CSV活動
すべての中心に、
CSVを。
CSV活動
社会課題の解決を通じ、持続的な企業価値の向上を目指す「CSV」に早くから力を注ぐキリン。CSVを経営の揺るぎない根幹としていくために、さらに何が必要なのか。「商品をつくり、売る」という企業活動の基本に、CSVはどう関わっているのか。そして、キリンで働く一人ひとりに、どんな変化をもたらしていくのか。CSV戦略部の2人が語る。
※内容・登場社員の所属は取材当時
大島 健太
キリンホールディングス株式会社 CSV戦略部
須賀 香菜美
キリンホールディングス株式会社 CSV戦略部
提供できる価値を、さらに向上させるために。
消費者の「買う理由」が変わりはじめている。
たとえば飲みものなら、おいしさや品質の高さを前提として「環境に配慮してつくられているか」「生産地域の労働者への配慮が行われているか」といった観点が持ち込まれ始めている。欧米ではすでに一般的になりつつあるが、今後、日本でもさらに広がるかもしれないと大島は考える。こうした変化が、つぎつぎに起こっていく時代。そのひとつひとつに的確に対応することで、社会的な課題解決を行うのはもちろん、経済的価値をも生み出してキリンの成長機会につなげていく。つまり、「お客様」「社会」「企業」のすべてに提供できる価値をさらに向上させていくために、キリンのCSVはある。
CSVは、一人ひとりの仕事。
ただしそれは、特別な取り組みだけを指すのではない、と大島は言う。たとえばキリンには、「零ICHI(ゼロイチ)」というノンアルコール・ビールテイスト飲料がある。その前身といえる「キリンフリー」の発売当時、飲酒運転が大きな問題になっていた。 「キリンフリー」は社会の要請に応えるように登場し、その特徴にちなんで「飲酒運転を、0.00%に。」という屋外広告も展開された。この「何のために」という前提をきちんと意識しているかどうかで、一人ひとりのふだんの仕事が変わる。製造や物流の体制をどう構築するか。どんなキャンペーンを張るか。どこに提案し、商談で何を語るか。ひとことにまとめるなら「社会に必要なこの商品を広げるために、自分は何をすべきか」。そんな意志が、職種ごとの行動に自然と宿る。ひとつの目的を全員が分け合うことで、組織も強靭になっていく。そんなCSVのあり方こそが理想だ。
一方で、CSVの実行にはイノベーションも欠かせない。「キリンフリー」には、ビールテイスト飲料としては世界初のアルコール分0.00%という技術面のイノベーションがあった。「社会問題を解決するだけでなく、経済的価値も同時に生み出すことができ、しかも持続的なものとなると、これまでにない手法を編み出さなければならない。イノベーションが必要となる」。そんな最新事例のひとつが、須賀が進める日本産ホップのプロジェクトだ。
CSV
Creating Shared Value=共有価値の創造。社会価値と経済価値の創造を両立させることによって、企業価値を向上させていくこと。経営学者のマイケル・ポーターによって提唱された。
ビールの魂が消える。
ホップは「ビールの魂」と呼ばれる。ビールならではの華やかな香りや爽やかな苦み、クリーミーな泡立ちは、そのほとんどがホップに由来するものだからだ。
キリンは100年近くも前から、日本国内でのホップ栽培に力を注いできた。東北を中心に生産されている日本産ホップは、じつに約70%がキリン向け。その年に収穫した日本産ホップを使用する「一番搾り とれたてホップ生ビール」は発売15周年を数え、フレッシュな日本産ホップを味わえるビールとして定着し始めている。
しかし、ホップを取り巻く状況は厳しい。ホップ農家では高齢化が進み、後継者不足が深刻だ。2005年からの10年間で生産量は半分近くにまで落ち込んでいる。
この風向きを変えつつあるのが「TK(遠野xキリン)プロジェクト」だ。舞台は、日本一のホップ栽培面積を誇りながらも、やはり生産量が激減している岩手県遠野市。地元農家や地域住民、そして行政とキリンが連携し、「ホップの里からビールの里へ」を合言葉に、ホップの魅力を最大限活かしたまちづくりに取り組んでいる。日本産ホップを用いたクラフトビールづくり、スペインでは定番のおつまみであるパドロンという野菜づくり、さらにビアツーリズムなどを行ってきた。その結果、10名を超える若者がホップ栽培を志して遠野に移住。2018年には、「ホップの大規模栽培」「遠野パドロンの栽培と6次産業化」そして「ビアツーリズム事業」に取り組む農業法人「BEER EXPERIENCE(株)」が設立されキリンも出資するなど、地域活性化を加速させている。
キリンにとってこうした取り組みは、日本産ホップを安定的に確保でき、その特徴的な香りや品質を活かした商品開発やマーケット拡大が見込めるメリットがあり、クラフトビール事業への貢献や、ビールの新たな楽しみ方の提供にもつながっていく。
チャレンジを重ねるたび、仲間は増える。
この動きを、遠野以外でも。そんな機運の中、須賀は秋田県横手市に向かった。横手市も日本産ホップの一大生産地だが、遠野を上回るほどの危機的状況にあった。生産者の平均年齢は69歳。しかも39戸のホップ農家のうち、後継ぎが決まっているのはたった2戸。早急に手を打たないと、ホップの生産が途絶えてしまうかもしれない。
須賀は行政に対して、ホップの生産維持と、ホップがあることへの誇りを醸成する取り組みを提案。ホップがある町だからこそ体験できるビアツーリズムや、小学生のキャリア教育の一環としての栽培体験などを実施した。またそれらの取り組みには、ホップ以外の農産物や横手の食文化とのコラボレーションを組み込んだ。ホップだけでなく、地域が抱える農業や人口減などの課題の解決にも貢献したい。そんな想いで様々な関係者に声をかけながら、小さなチャレンジを積み重ねることで熱意がじわじわと伝わり、活動に共感を持つ方々が増えていった。
火を灯す。灯しつづける。
やがて関係者が増えるにつれ、すれ違いや摩擦を感じる場面も出てきた。やや焦りを覚えた須賀は、先輩に相談した。TKプロジェクトを主導し、遠野に移住までしてしまった先輩だ。先輩はこともなげに答えた。「ノイズが出てくるってことは、それだけ自分が動いてるってことだよ」。その言葉に、須賀は大いに勇気づけられた。先輩の表現を借りれば、これは「人の心に火を灯す」仕事だ。まず自分が動いてみせなければ、誰かの心を動かすことは叶わない。
「須賀さんがそこまで言うなら、本気でやろうと思う」。やがて横手市とキリンは、持続可能なホップ生産地の確立と地域活性化を目的とした連携協定を締結。そして新たにホップ栽培を志す若者も現れた。民間でも、農家や地域コーディネーター、IT企業やデザイナーなど、さまざまな分野の仲間ができた。もちろん、誰もが地元の住民だ。ホップという農産物を中心にしながら、さまざまな産業にまで踏み込んだ地域活性化のタネまき。須賀は1年でそこまでこぎつけた。もちろん、まだまだ先は長い。だが、やろうとしていることの大きさを思えば、もとより長期戦は覚悟の上だ。「キリンが応援することで、地元だけなら10年かかることが3年でできた。そんなお手伝いになれば」。
ストーリーにする。
CSVが広がっていく。
大島と須賀の所属するCSV戦略部には32名が在籍し、お酒を扱う企業責任としてアルコール関連問題に対して、そして事業と関係の深い「健康」「地域」「環境」の3つの社会課題にCSVで取り組むチームが動いている。そこまでの体制がありながらも、「キリンのCSVはまだまだ途上だ」と大島は言い切る。「むしろ途上だからこそCSV戦略部がある。CSVが社員全員の自分ごとになっていて、すべての判断基準に自然と据えられるようになれば、この部はいらない。それが究極の姿だと思う」。
そのためにいま必要なのが、ひとつでも多くの成功事例を生み出し、社内に広げていくこと。須賀も、遠野市や横手市のケースを正しく社員に伝えるために動きはじめている。「どうしても『地域のためにいいことをしました』というわかりやすい面だけが注目されがち。けれど、本質はそうではない。この取り組みがどのように実るのか、キリンにとってどんな経済価値があるのかのストーリーをきちんと描き、共有していくことが大切」。
経済学者のマイケル・ポーターが、共同執筆の中でCSVを提唱したのが2011年。キリンが、経営戦略としてCSVを取り込んだのが2013年。社会的にもキリンにとっても、CSVの歴史はまだ浅い。だからこそ大島や須賀の描くストーリーは、これからのCSVのあり方を示す重要な指針になる。それがきっと、新しいキリンのCSVストーリーにつながっていく。
CSV
グループの強みを活かして社会課題に取り組むことで、イノベーションを生み出し、企業価値を向上させ、お客様にとっての価値を持続的に提供していく。「酒類メーカーとしての責任」を果たすことを前提として、大きくは「健康」「地域社会」「環境」という3つの社会課題に率先して取り組み、さまざまな成果を上げている。
大島 健太
キリンホールディングス株式会社 CSV戦略部
2003年入社。キリン広島ブルワリー(当時)に配属され、ビールづくりの全行程を学ぶ。その後、滋賀工場での醸造工程の生産管理、本社での原材料調達を経て、Four Roses Distillery, LLC. へ出向。キリンが擁するウイスキーブランドである「フォアローゼズ」の生産と物流に関するマネジメントや組織作りなど手がけ、さらにはブランディングなどにも関与。海外留学しMBA取得後の2018年、帰国とともにCSV戦略部に配属。
須賀 香菜美
キリンホールディングス株式会社 CSV戦略部
2011年入社。実家が福島県にあり、東日本大震災の年に入社したことから、企業と地域貢献の可能性について模索を始める。福岡工場での研修を経て、千葉支社に配属。ホテルなど業務用の酒類営業を4年間経験。その後、2016年にCSV推進部(当時)へ異動。「TK(遠野xキリン)プロジェクト」に1年間関わったのち、横手市におけるホップを通じた地域振興の土台づくりを手がける。